After buyer’s room : SUCCESS STORY 001

2021/07/29

buyer's room 2020 経済産業大臣賞受賞 NorteCarta「いぶりがっことチーズのオイル漬」 

「プロのバイヤーさんから、ダイレクトな視点で商品を評価してもらえたのがよかった。」「アイデアが浮かぶのは素人の強み。でも足りない経験と実績を補うには、buyer's room の受賞が一番効果的だった。」オイル漬け専門店 Norte Carta 代表 岡本 大介さんのインタビュー

2020年 buyer’s room で「経済産業大臣賞」を受賞した「いぶりがっことチーズのオイル漬」。その商品を生み出したのは、Norte Carta 代表 岡本 大介さん。受賞から約半年を経て、その後の反響や、周囲の反応について改めてお話を伺った。地元・秋田の食材なしでは成立しない岡本さんの商品だが、2020年の受賞をきっかけに、秋田を飛び出し、ネットやTVの追い風も受け、いま全国でファンを増やし続けている。

バイヤーの本気

「バイヤーさんが本気で選んでいるということにつきる。」…岡本さんに「buyer’s room」の魅力を問うと、即答でこう返ってきた。buyer’s room は、実際の販売を前提にしている。受賞するということは即ち商談の始まりでもある。どのバイヤーが自社の商品を選んだのかも公表される。他の審査会とはその点で大きく違う。

実際の取引の中でフィードバックがある。それがまた、次のアイデアや商品開発に繋がっていく。それが buyer’s room の魅力だ。「バイヤーというプロフェッショナルの人たちの視線を通して、実はこの商品ってこういうお客さまにも合うんじゃないかとか、あるいは、ここをこういうふうにブラッシュアップすると、もっとこんなふうになるんじゃないかなど。自分ではなかなか気づかないところを、教えてもらえる。そこに大きな価値がある。」そう岡本さんは話してくれた。

受賞=「説得力」

「立ち上げたばかりのブランドの、足りない経験と実績を補うには、buyer’s room の受賞が一番効果的だった。」と、岡本さんは続ける。いくらアイデアがあっても、いい商品が作れたとしても、この受賞がなければ、周りへの「説得力」が足りなかった。まだ関係が浅い取引先が多かったので、受賞をきっかけに信頼関係が強まった。原材料に関しても、難しいリクエストにも、気持ちよく応じていただけるケースが増えた。これは、「buyer’s room での受賞を糧にして、さらなる信用を築くことができたから。」と、岡本さんは重ねた。

「応募したのは、創業間もない僕らに足りない経験と実績を補うなら、コンテストでの受賞が一番効果的だと思ったからです。毎年、コンテストがあるのは知っていた。こちらから商工会に問い合わせました。売れるか売れないかという、よりダイレクトな視点のbuyer’s roomで最高賞をいただけたのは本当にうれしかった。大きな「説得力」になりました。」

地方から全国へ

Norte Cartaは、2018年に岡本さんが立ち上げた。店名はスペイン語で「北の手紙」「北のメニュー」。秋田という北の地域から、美味しい商品を皆さまの食卓に、手紙のように届けたいという思いがあった。そして秋田県を通る北緯40度と同じ緯度にスペインがある。さまざまなイマジネーションを受けて、岡本さんたちは、スペインのオイル漬けをヒントに次々と商品を生んできた。

いま「buyer’s room」での受賞を、きっかけに商品は、県外に広がりはじめた。11月受賞。受賞から時間を置かずして地元のテレビ局で取り上げられたり、人気のWEBマガジンで掲載。その後、在京のテレビ番組で取り上げられる。今は、秋田県の範疇を飛び出して全国へ。売上の大半が県外を占めるようになった。今風に言うと「バズった」。全てが「buyer’s room」が理由というわけではないが、「経済産業大臣賞受賞」という賞のパワーを感じたと言う。このパワーの後押しと、SNS、雑誌、テレビなど様々な相乗効果があって、多くの方に認知してもらえることとなった。

「食べるハーバリウム」

商品名のとおり、一番大事なのは「いぶりがっこ」。岡本さんが惚れ込んだ秋田県南部の本場「湯沢地域」の生産者から供給を受ける。それに加えて、発酵文化の象徴でもある「塩麹」。そして、ポイントは、味付けとしてだけでなく、魅力的な色を演出する秋田伝統の魚醤「しょつつる」。このすべてが、「いぶりがっことチーズのオイル漬」で繋がった。

賞品ヒットの理由を、岡本さんは、こう分析する。「仕掛け作りだったりとかアイデアの種みたいなものは生み出せる。だが、それを実際の商品にしていく。あるいは、お客さまにどう伝えていくかは、お客様に近い感性を持つ菅原さんの方が向いている。私一人では、絶対に商品化までたどりつけなかった。彼女がいて初めて形にすることができた。」

商品開発の菅原美里さんは、伝統の秋田の食材に対して、自由なアプローチを提案した。お土産物で売られている1本まるのままのいぶりがっこや、薄切りになったものではなく、「今までにない角切りのいぶりがっこ。歯応えも良くて、見た目も中身がきれい。美味しそうだなと思ってもらえるようなモノ」「オイルも透明感のある仕上がり」「たとえて言うなら”食べるハーバリウム”のようなイメージ」を目指したと話す。

「僕らは、基本的に最後の最後に商品を作っているだけ。元々ある秋田の大切な食材を作っている彼らがあって、こそ」「ぜんぶ自分たちでやっているとは思っていない。ただ、そういう関係性に、ひたすら感謝している。」「まだまだ恩返しはできていない。頑張らないと。」岡本さんは、そう話す。聞けば聞くほど、まるで瓶の中身は、秋田の食の結晶と、それを支える人々の繋がりの標本のように見えてくる。

エントリーした自分を褒めてあげたい

これから、岡本さんたちは、春に出す予定の商品開発に着手する。この半年、「buyer’s room」や、さまざまな評価を受けてきた。「正直、目の前の受注をどうこなすかで手一杯だった。」と語る。「いぶりがっこ」と「チーズ」がいつまでお客様に評価していただけるか、それは誰にもわからない。供給先の評価や、お客様からの評判に、1つ1つの自信を積み重ねてきた現在だからこそ、改めて供給体制を構築し、より良い商品を製造できるように整えていきたい。そう岡本さんは語る。

「販路が開拓できて 実際に売り上げにつながるというだけが大事じゃなくて、そういうコミュニケーションの中で、新しい商品の世界を広げていけるのは、とても大事。」

 最後に、笑顔を交えながら、岡本さんはこう結んだ。「buye’s room に、エントリーした自分を褒めてあげたい。エントリーは誰でもできます。だからこそ、成功したことに注目するよりは、チャレンジすることが大事だよと伝えたい。」彼らにしかできない、個性あふれる新商品の開発。「バズった」だけじゃない、岡本さんの事業は「buyer’s room」きっかけで、大きな展開を迎えた。だが何よりも、大事だったのは、チャレンジすること。それが、岡本さんにとっては、buyer’s roomにエントリーすることだったのだ。


(文=吉川真那 撮影=木村文吾)


岡本 大介(オイル漬け専門店 Norte Carta 代表)

1976年生まれ、大阪出身。大阪大学卒業後、音楽好きが高じてオーディオメーカーに就職。高付加価値商品の販売手法やブランディングを学ぶ。家族で秋田県八峰町に移住。地元の水産会社に就職。好きだったアヒージョ(オイル漬け)に着目しオイル漬けの加工商品を開発、秋田県の特産品コンクールで入賞を果たす。オリーブオイルが注がれたガラス瓶の光沢感が醸し出す雰囲気に、高級オーディオと通じるものを感じ、オイル漬けの瓶詰食品を専門とした事業を行うことを決意。2018年「オイル漬け専門店 Norte Carta 」として起業。秋田の食材・食文化を活用しつつも、これまでない取り組みで商品を開発し、新たな市場を開拓している。

https://www.nortecarta.com

  • buyer’s room とは

    昭和63年に開始した本事業は、「審査会型ビジネスマッチング」をテーマに、賞の授与による付加価値向上に加え、流通業者とのビジネスマッチングの機会を提供しています。

  • buyer’s one とは

    第一線で活躍するバイヤーたちによる商品開発・改良時点から、マーケットの需要を踏まえた「売れる商品作り」までをサポートする取り組み。商品開発・改良支援を行い、その後の販路開拓まで一気通貫で支援する「buyer's one(バイヤーズ・ワン)」。

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